18歳のドイツ人で、我が家に長期ホームステイしているB君。
彼は、保育園でボランティア活動をしている。

ある日のこと。私が車に乗り込み、「出発!」と言ったところ、 B君がこう聞いてきた。
「今の、ドイツ語?」
ええっ、ドイツ語?
「『シュパーツ』は、ドイツ語で『楽しい』ってことだよ。」
そんな会話をした後、ヒッポの音源を聞いていると、「シュパーツ」がたくさん耳に飛び込んでくる。今まで同じ音源を聞いていたとは思えないほど、あちこちで「シュパーツ」を発見する。
また別の日、B君の帰国が近づき、みんなで思い出作りに動物園へ行った。ぞう、きりん、カバ、サイ……。
「これ、ドイツ語でなんて言うの?」と、動物ごとに尋ねる私たちに、B君は一つひとつ丁寧に教えてくれる。優しい子だ。
その夜、家でまたヒッポの音源を聞いていると、「ナースホーム」という言葉が急に耳に飛び込んできた。
サイだ!動物園で教えてもらったばかりの言葉だ。
今まで何度も聞いてきた音源に、あの動物園での風景が重なる。
B君はもうすぐ帰国するが、音源は家でずっと流れている。これからもこの音源を聞くたびに、彼との楽しかった時間を思い出すに違いない。
私はいつか、彼が運転する車の助手席に座って、「シュパーツ!」と 叫ぶ日が来ることを、今から楽しみにしている。

(T・Sさん/広島県)